兜門(かぶともん)をマックレインさんがくぐる
ことし4月9日、前日にあたかじめ打ち合わせていた通り、マックレイン陽子さんを裏千家今日庵にご案内した。午後3時まえ宗家から少し離れた処でタクシーを降り二人で歩いていった。陽子さんは少し緊張なさっている。以前いただいた何通かのメールに夫々こう書かれてあったのを私は思い出した。
「私は戦前、戦時、戦後の、日本が経済的、文化的に最も貧しかったただ中を日本で過し、御茶、御花の御稽古ごと一つしたこともない無粋な女で、裏千家の御宗家など、とてもお恥ずかしくて伺わせて頂ける人間ではありません。」
「裏千家を訪問させていただくとき、スラックスを履いていてもよろしゅうございますか。それともきちんとした洋服を着たほうがよろしいでしょうか。ただでさえ御茶の御作法を知らない人間で、これ以上失礼に当たることはしたくないと思っておりますので、何でも正直におっしゃってくださいませ。」
大丈夫です、と私は申し上げた。
・・・厳粛な面持ちで兜門をくぐられる遠来の客。露地という名の茶庭の踏み石をしめやかに歩かれる。それでいてあどけない童女のような笑顔。
私たちが招き入れられた又新(ゆうしん)という立礼席の茶室で、お茶をいただいていると暫くして若宗匠のお出ましになった。文学者としては日本ペンクラブ会員でもある若宗匠。漱石の孫・マックレイン松岡陽子さんとそれは又なんという和やかで楽しい会話であったことか!
その忘れられない語らいはそっとしておこう。後日オレゴンに帰国された陽子さんのメールには次のような一節があった。
「若宗匠との御写真とてもよく写っていて嬉しいです。本当に楽しい日でした。彼はご自分の分野だけに優れていらっしゃるだけでなく、プロの写真家ですっかり感心してしまいました?本当のあーテイストでいらっしゃるのですね。」
若宗匠は今日、第十六世今日庵家元の継承宣誓式を宗家利休堂において行われる。もう若の名は無い。その思い出にと私は拙サイトの表紙に、記念の筆跡をUPした。ことし3月、私が筆者となった七事式の会記である。「閑談無賓主」の語と花押が若宗匠の筆になるものである。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント